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第233話

ドン

弥生の体がガラスドアにぶつかり、音が響いた。

店員はその光景を見て驚き、駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

電話の向こうでは、由奈も音を聞きつけて驚き、「どうしたの?大丈夫?何があったの?」と問いかけた。

弥生はぶつけた肩の痛みで眉をひそめた。店員が彼女を支えに来たが、弥生はまず自分のお腹に意識が向かい、反射的に手を当てた。

肩に痛みがあるだけで、他に問題がないとわかると、彼女は安堵した。

そして顔を上げて、ぶつかった相手を見た。

誰だか知らないが、歩き方ちょっと乱暴じゃないか?

しかも、こんなに時間が経っているのに、ぶつかった相手は一言もお詫びがない。

顔を上げると、弥生はどこか見覚えのある顔が目の前にあることに気づいた。

ほんの数秒後、弥生は反射的にその人物の名前を口にした。

「幸太朗?」

「何?何?」耳の向こうで、由奈が疑問の声を上げ、「その名前、どこかで聞いたことがあるような......何があったの?大丈夫?」と尋ねた。

幸太朗という名前が、弥生の口から出てきた瞬間、幸太朗自身も驚いていた。

まさか、こんな美しいお嬢様が、何年も経っているのに、彼を一目で認識し、正確に名前を呼ぶとは思ってもいなかった。

彼女のような上流階級の人々にとって、幸太朗のようなチンピラはまるで目に入らない存在だ。

「こっちでちょっと用事があるから、後で話すわ」

そう言って、弥生は電話を切らずに由奈は黙って聞き入ることにした。

「どうしてここにいるの?」弥生は肩を押さえながら幸太朗に尋ね、さっきぶつかったことを気にする素振りはなかった。

幸太朗の思い描いていた光景とはまったく違った。

瀬玲は、しばらく待つようにと言っていた。

だが、奈々がこの女のせいで傷ついたこと、さらには美しい顔に傷跡が残ることを思うと、彼の怒りは抑えきれなかった。

手を出せないなら、せめて彼女を少し不愉快にさせることができるだろう?

ぶつかっても、怪我をさせるわけではないし、もし意図的ではなかったと言い訳すれば、誰も彼を非難できない。

しかし、弥生の反応は予想外だった。

困惑した幸太朗は、しばらくしてからようやく、「ケーキを買いに来ただけだ」と答えた。

「そう」弥生はうなずき、微笑みさえ見せた。「この辺りで働いてるの?それとも最近来たばかり?今まで一度も会っ
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